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2009年5月 2日 (土)

感劇話その96 渡辺美佐子の強さに涙__座・高円寺オープニング公演『化粧 二幕』

 高円寺に新しくできた劇場、「座・高円寺」の柿落としとして公演中の『化粧 二幕』を見てきた。『化粧』は82年の初演以来、海外公演も含めてもう500回以上上演されている渡辺美佐子さんの一人芝居。いつか見たいと思っていたお芝居だったので、声をかけていただいたときはすごく嬉しくて、楽しみに出かけた。
 取り壊し寸前の寂れた芝居小屋で、出演前の準備をする大衆演劇の女座長・五月洋子。『伊三郎別れ旅』の伊三郎に扮するために、楽屋で下着姿から手足におしろいをはたいて脚絆や草鞋を身につけ、顔には白塗りをして化粧を施していく。舞台の真ん中にぽつんと置かれた化粧台には鏡がなく、彼女は客席を向いて座る。つまり五月洋子は、お客の目には見えないが、そこにあるはずの鏡(=客席)に向かって化粧を続けるという設定だ。周囲にいる(実際にはいない)劇団員にあれこれを指示を出しながら化粧をしている最中、テレビ局の人間がやってきてテレビ出演の話を持ちかける。それは、幼い頃に孤児院に預け、今は売れっ子スターになっている息子との対面の話だった……。
 休憩をはさんで二幕、約1時間半をたった一人で演じ切る渡辺美佐子。見えない鏡に向かって慣れた手つきで目尻に赤いシャドウを入れ、眉を描く。そんな化粧のテクニックに驚いていたのも最初のうちだけで、やがてそのエネルギッシュな演技にぐんぐんと引き込まれていく。茶目っ気たっぷりに客席を笑いの渦に巻き込みつつ、ときにしんみりほろりとさせながら。そして、最後には鬼気迫る演技へと、全力で走り切る。息子を追い求める心とか、役者としての自分を追い求める心とか、それらが混ざり合っていつしかすさまじい狂気をはらんでいく五月洋子の姿。すごすぎる。そのかわいらしさ、いじらしさ、力強さに圧倒されて、気がつくと涙が流れている。五月洋子を通して女優・渡辺美佐子の生き様の強さを見せつけられているような気がした。女優としての圧倒的な存在感。カーテンコールの際に肩で大きく息をしながら拍手に応える渡辺美佐子さんの、力を出し切った後の満足した静かな表情が印象的だった。今月末のこの劇場での公演で、上演600回を迎えるという『化粧』。もっともっと、長く続けていただきたいし、私もまた数年後にどこかで見たいなと思う。

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座・高円寺(左)は高円寺の駅から徒歩5分。中央線の電車内からも見える。右は『化粧』のプログラム。

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